Chris Karrer / Sufisticated (1996)
( World music, Ethnic Rock, Gypsy Music )

1. Down at the casbah
2. Tritonus andaluz
3. La bruja
4. Taqsim supreme
5. Al risha
6. Visions of suleika
7. El khahira el kebira
8. Barbate
9. Lamento del moro
10.Barzah
11.Hicaz oyun havasi
Chris Karrer / Sufisticated (1996)

   1967年、独ミュンヘンで共同生活を始めたヒッピー連中の中から登場してきたというジャーマン・サイケデリックの寵児にして最高峰バンドの一つ、アモン・デュール。当初大所帯だった彼らはじきに政治活動に関心の強い連中と純粋に音楽活動に専念したい連中の2派に分裂、かたやアモン・デュール、そして分裂したもう一方はアモン・デュールIIと名乗りお互いにドイツ・ロック史に残る作品を発表する事になる。だが偶然の産物といえる「サイケデリック・アンダーグラウンド」を発表した本家アモン・デュールは数年の活動でアイデアと才能が行き詰まり幕を閉じてしまう事になる、
 クリス・カーラー率いるアモン・デュールIIの方はデビュー作「Phallus Dei」(1969年)を幕開けに「Yeti」(1970年)、「Tanz Der Lemminge」(1971年)、「Carnival In Babylon」(1972年) 、「Wolf City」(1972年)等の傑作を次々と発表、今日ではCANやファウスト、クラフトワークらと並び1970年代のジャーマン・ロック(クラウト・ロック)を代表するバンドとして認知されている事はご承知の通り。1970年前後に登場した多くのプログレッシヴ・ロック・バンドが1970年代中盤から後半にかけてAORやディスコ・ミュージック、パンク・ロックなどのブームに影響を受けて試行錯誤の結果自ら墓穴を掘るようなテンションの低い作品を発表していったのと同様、アモン・デュールIIも次第にアメリカのマーケットを意識したような作品(音楽)に傾倒、1978年の「Only H uman」を最後に一旦音楽活動を停止してしまう。

 が、1980年代に入るとオリジナルのアモン・デュールとアモン・デュールU双方のバンド名の名付け親でもあるクリス・カーラーらの手により復活する事になる。この後は少々ややこしい。この新生バンドは1981年に「Vort ex」というタイトルのアルバムを発表してオールド・ロック・ファンを大いに驚かせますが、その後再び長きに渡り沈黙してしまい、クリス・カーラーのアモン・デュールUは長く活動を停止します。この後がややこしいのですが1980年代以降、やはりUのオリジナル・メンバーだったデイヴ・アンダーソンらによってまたしてもバンドが復活、1980年代の録音と思われる数枚のアルバムが発表されておりますが この時代のUはまったく未聴なので省略します。まあ最後でいいでしょう。入手も困難だし。
 さて、ギタリスト、バイオリニストで実質的にアモンデュールIIのリーダーであったクリス・カーラーは「Only Human」から「Vortex」の間に1枚ソロ作品を発表している。「Chri s Karrer」と名付けられた作品がそれで1980年に発表、これまた未聴なので内容には触れませんが、アモン・デュールU(&クリス・カーラー)同様、中近東音楽のフレーズを積極的に導入して徐々にジャーマン・ロックの枠組みから脱却、今日ではワールド・ミュージックの先駆的存在として世界各国で高い評価を獲得したエンブリオ(Embryo)のメンバーがソロ作に参加している事からも判るように、その後のクリス・カーラーの「本気の」エスニック路線のスタートともいえる作品として位置付可能かも。

 余談ですが、商業主義から離脱して音楽家が本当に演りたい音楽を既成の概念に囚われずに製作する、あるいは演奏する。エンブリオのこうした広大な音楽路線はプログレッシヴ・ロック・ファンからはかなり前に見放されてしまいましたが、ロックという枠組みすらとっくの昔に飛び越えてしまったエンブリオのようなバンドは、ボーダーレスが当り前となった今のインターネット時代では高く評価されるのが定説となりつつある。ロック・ミュージックですら、現在では既に《既成》でしかない訳ですし。今となってはドイツ音楽界が生み出した最高のバンドの一つと言ってもいいかもしれませんが。ちなみにクリス・カーは「Chris Karrer」発表近辺にエンブリオやポポル・ヴーの作品にも参加している。
 1990年代に入っていつの間にか復活していた、クリス・カーラー率いるアモン・デュールII 。オリジナル・メンバーにより、久々のスタジオ作「ナダに輝く月」を初め、日本公演の模様を収めた「ライヴ・イン・東京」、そして収益の一部が阪神大震災の見舞いとして寄付された「神戸復興」(日本のみ発表)と新作が発表されてきましたが、クリス・カーラー自身も1991年におよそ10年振りとなるリーダー作「Dervish Kiss」を発表、アモン・デュール II活動停止期間中からエンブリオのアルバムに参加するなど中近東路線をまい進していたカーラーの3枚目となるソロ作が「Sufisticated」(1996年)。


 これはいいですね。収録曲は全部で12曲。録音月日にはかなりばらつきがあり1994年から1996年にかけて行われている模様。(3.は1991年、9.は1982年)演奏には本人を含め総勢12名が参加、エンブリオのクリスチャン・ブッヒャルトや「ナダに輝く月」にも参加したピーター・ポール・クーエンの他、中近東音楽やフラメンコ音楽の実力派が参加しておるようですが、その筋の音楽にあまり強くないのでこうした名前がどれだけ著名な人なのかも判りません。そしてCD冊子にはエンブリオのメンバー、ローマン・ブンカの本作を絶賛するコメントあり(ちなみにカーラーはブッヒャルト、ブンカらと今から10年前の1991年にエンブリオのメンバーとして日本に来日、地方でのイベントに参加したのだとか)。
  中東独自のメロディ、アラブの伝統音楽や歴史上イスラム文化の影響を強く受けてきたスペインにジプシー達によってもたらされたフラメンコ音楽を見事なまでに消化しきった本作は、(「クラウト・ロック」の先入観を持って聴くとしっぺ返しを食らうと思いますが)非常に聴きやすいワールド・ミュージックとして広く薦められるもの。よくありがちな「エスニックな気分を注入してみました」程度の安直な媚びたアルバムではなく、アモン・デュールU結成当初から度々試みてきたカーラーの中近東志向とエレクトリックな音楽とが違和感なく融合した傑作といえると思います。

 あくまでもクリス・カーラーの本作は中近東音楽を見事に消化したロック・アルバム。ジプシー音楽色が強いせいか、一部楽曲でジプシー・キングスやあるいはパコ ・デルシアを彷彿とさせる部分あり。かつてのオドロオドロしいジャーマン・エクスペリメンタルな路線は想像するなかれ。 


投稿日 : 2001/10/05 

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