Anton Fier / Dreamspeed (1993)
(Ambient Pop/Rock , Experimental Rock )

1. Dreamspeed 
2. Being and Time  
3. Emotional Smear  
4. Cloud Without Water  
5. Time Function  
6. A Vague Sense of Order 
7. Never Come Morning  
8. Dreamspeed  
9. A Vague Sense of Order 
Anton Fier / Dreamspeed (1993)

  1980年代前半の米音楽シーンを代表する、NYのアヴァンギャルド・ロック・バンド、ゴールデン・パロミニスを結成して成功させたドラマー、アントン・フィアが1993年に発表した、現在まで唯一残されている彼のソロ・リーダー作「Dreamspeed」。Avant という一般的にあまり馴染みのないレコード会社から発表された為(日本ではディスク・ユニオンがディストリヴュート)、それほど知られた存在ではありませんが、本作品はアントン・フィアの足跡を追いかけている人は必聴というべき作品。ビル・ラズウェルが参加している事は元より、あのフューが日本から駆けつけて録音に全面的に参加、そう、本作品はドイツにあるコニー・プランクのスタジオで録音されたフューの一大傑作「Phew」(1981年)を聞いて彼女の歌と音楽に魅了されていたアントン・フィアが、”フューとの共演”という夢を実現させた作品。
  本作品に収録されている9作品の内8曲がフューがボーカルを担当、また作詞/作曲にもビル・ラズウェルやアントン・フィアと共にほぼ全ての曲にクレジットされるなど八面六臂の活躍を見せているのです。 そんな訳で本アルバムはフューの作品をコレクションしている人にとっても見逃せない存在なのです。このフューとの共演がキッカケとなり、1993年秋にはアントン・フィアを含む当時のゴールデン・パロミロスのメンバーらにフューが参加する形でブラインド・ライト(Blind Light)という1枚限りのユニットが結成され、アンビエント・ダブ風ロック・アルバム「The Absence of Time」 が1994年にリリースされた事はファンなら承知の事実。

  ゴールデン・パロミロスの欄とダブリますが簡単に。1956年オハイオ州クリーブランド出身のドラマー、アントン・フィアの出発点はフィリーズという米カレッジ・ロック・バンド。1980年の「Crazy Rhythms」を最後に脱退、次は1982年にレコード・デビューを果たす”フェイク・ジャズ”バンド(2作目以降では”フェイク”の文字は取れますよ)、ラウンジ・リザーズにギタリストのアルト・リンゼイと共に参加。またしても1枚限りで脱退した後、今度はフィアと同郷のニュー・ウェーブ・バンド、ペル・ウブに参加し1982年のアルバム「Song of the Bailing Man」のみ参加するという慌しい活動を経て自身のバンド、ゴールデン・パロミノスの活動を開始。
 ゴールデン・パロミロスは1983年のセルフ・タイトル「The Golden Palominos」をセルロイド・レーベルからリリースした後は2作目「Visions of Excess」(1985年)、3作目「Blast of Silence」(1986年)、4作目「A Dead Horse」(1989年)等々、アルバム毎にメンバーが入れ替わるという慌しい活動を展開(これもフィアの意図する所だったのでしょう)、またサウンド・スタイルも時代を経て様変わりし、1990年代に入っても5作目「Drunk With Passion」(1991年、リチャード・トンプソン、カーラ・ブレイ参加)、女性ボーカリストのロリ・カーソンを迎え入れて製作された6作目「This Is How It Feels」(1993年)等のアルバムを発表してきたバンドです。


 ■ フュー       - Voices 
 ■ アントン・フィア   - Percussion, Drums, Sampling, Loops
 ■ ビル・ラズウェル  - Bass
 ■ ブーツィ・コリンズ - Guitar
 ■ マット・スタイン   - Sampling, Loops
 ■ バケットヘッド   - Guitar

  さて、アントン・フィアのソロ・アルバム「Dreamspeed」は時期的にはゴールデン・パロミロスの通算6作目となる作品「This Is How It Feels」とほぼ同時期に発表されたアルバムなので参加メンバーもフューを除外すれば「This Is How It Feels」に参加したメンバーが参加しております。ジョン・ゾーンの名前もクレジットに見れますが製作には直接関わっていないと思われます。地を這うようなビル・ラズウェルの重厚なベースに、かつて「The Golden Palominos」を愛聴していた人間としてはニンマリとしてしまう訳ですが、内容的には当時のゴールデン・パロミノスの延長戦上ともいえる内容で、パロミノスの次回作「Pure」(1994年)やブラインド・ライトへの布石ともいえる意味のある作品です。
 スピード感はあるものの、抑制の聞いたメロディ、ただ悪戯に変拍子を多用する事なく、淡々と刻むダンサブルなアンビエント・リズム、中々好感の持てる作品なのですが、如何せん、フューの個性があまりにも強すぎて、全編通して聞くとアントン・フィアの作品なのか、フューのソロ作品なのか、区別が付かなくなってしまう位。という訳で、アントン・フィアのファンだけでなく、フューの関連アイテムを揃えている人にとっても絶対に入手すべきマスト・アイテムと言えます。と書けば、ほうら、貴方は欲しくなる、欲しくなる(笑)。1985年の「Visions of Excess」以降の急激なゴールデン・パロミノスの変貌に閉口してしまった人も安心。 


投稿日 : 2002/05/25 

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