Picchio dal Pozzo / Picchio Dal Pozzo (1976)
( Italian Rock, Jazz Rock )

1.Merta 
2.Cocomelastico 
3.Seppia
a. sottotitolo
b. frescofresco
c. Rusf 
4.Bofonchia 
5.Napier 
6.La floricultura di Tschincinnata 
7.La bolla 
8.Off 
Picchio dal Pozzo / Picchio Dal Pozzo (1976)

  イタリアン・プログレッシヴ・ロックの雄ニュー・トロルスのヴィットリオ・デ・スカルツィの実弟アルドー・デ・スカルツィ(キーボード、ヴォーカル)を中心にイタリアはジェノヴァにて1972年に結成されたピッキオ・ダル・ポッツォ(Picchio Dal Pozzo)はイタリアには珍しいカンタベリー系ジャズ・ロック・バンド。その実力はかねてからマニア筋から高い評価を受けていたにも関わらず、結成から解散までのおよそ10年程の間に僅か2枚しか作品を発表しなかった寡作のバンドであった為、知名度という点ではイマイチな存在であった。だが、デビュー作と2作目の空白の期間を埋める未発表音源集「Camere Zimmer Rooms」が発表され、現在では彼等の過去の音源は公式発表盤を含め、3枚が市場に存在する。
  未発表音源の登場に往年のユーロ・ロック・ファンは大いに驚かされた訳だが、更にピッキオ・ダル・ポッツォは2作目発表当時のメンバーが終結して2004年に再結成、なんと新作「Pic_nic@Valdapozzo」まで発表してしまった。PFM、オザンナ、アルティ・エ・メスティリ、レ・オルメ、ロカンダ・デッレ・ファーテ、バンコ、ニュー・トロルス、ムゼオ・ローゼンバッハといったかつてのイタリアの名バンド達が1990年代以降に新作を発表する中、ピッキオ・ダル・ポッツォまでもが新作を発表してしまった訳だが、プログレッシヴ・ロックが過去の遺物扱いを受けていた時代を考えると隔世の感がする。

  ピッキオ・ダル・ポッツォの最初の作品は1976年に Grog というレーベルから発表された。このレーベルはアルドーの兄でニュー・トロルスのヴィットリオが設立に関わったレーベル。短期間の運営で終止符を打ったレーベルだが、勿論ピッキオ・ダル・ポッツォの作品が世に登場する事になったのも兄の後光があったから。だが、これほどの力量を持っていながらレコード製作の機会に結成から4年もの間に遭遇しなかったのは何故だったのか。マネージメントの問題に不備があったのか、あるいはアヴァンギャルド風味のカンタベリー系ジャズ・ロック・サウンドを真骨頂とするピッキオ・ダル・ポッツォのスタイルが当時のイタリアで受けいられなかったは定かではないが、兎に角兄ヴィットリオの当時の決断がなければ後世にピッキオ・ダル・ポッツォの音楽を聴く事も出来なかった訳だ。
  デビュー作「Picchio dal Pozzo」を発表した後に所属レーベルの運営停止などの問題もあり、ピッキオ・ダル・ポッツォの次なるアルバムを待つのに4年もの時間を要する事になる。この空白を期間を埋める未発表音源集として現在では「Camere Zimmer Rooms」なる作品が市場に投入されている事は上でも触れた通り。1980年、ようやくピッキオ・ダル・ポッツォは2作目のアルバムを発表する機会を得る事になる。前作では4人のメンバーにゲスト奏者という構成だったが、この作品では正式に3人のメンバーを加えた6人編成(前作に参加したメンバーの内ドラマーが脱退)となっている。この作品はヘンリー・カウのRIOにも関わったストーミー・シックスも作品を発表した L'Orkestra から発表されたが、この時点で既にバンド活動を継続する余力は残っていなかったようだ。


 ■ Paolo Griguolo       - Guitar, Percussion, Voice
 ■ Andrea Beccari       - Bass, Horn, Percussion, Voice
 ■ Giorgio Karaghiosoff - Percussion, Voice 
 ■ Aldo De Scalzi       - Keyboards, Percussion, Voice

 ■ Gerry Manarolo   - Guitar            ■ Carlo Pascucci     - Drums
 ■ Fabio Canini     - Drums, Percussion ■ Vittorio De Scalzi - Flute
 ■ Leonardo Lagorio - Contralto Sax     ■ Ciro Perrino       - Xylophone

  活動期間中に発表されたピッキオ・ダル・ポッツオの作品は1976年と1980年の2作品だけだが今回は1976年に発表したデビュー作の方を取り上げる。メンバーは4人編成でゲスト奏者として7人の演奏家が録音に参加している。パーカッション奏者の Giorgio Karaghiosoff は本作を最後に脱退している。収録は全部で8曲。ジャケットは同じ帽子を被った群集が政治の指導者らしき人物が顔を覗かせる門に引かれるように押し寄せる、といった構成。政治風刺や体制批判を盛り込んだ東欧のアニメのような一場面のようでもある。今回のCDはアルカンジェロ製の紙ジャケ。ピッキオ・ダル・ポッツオの名前は昔から知ってはいたが、なかなか彼等のCDを入手する機会に恵まれなかったユーロ・ロック・ファンの人達には有難い発売だ。
  さてピッキオ・ダル・ポッツオのデビュー作はイタリアン・ロックには珍しいカンタベリー系ジャズ・ロック。傾向としてはハットフィールド&ザ・ノースのサウンドに近い。更に英国流カンタベリー系ジャズ・ロックの上っ面だけ模倣するのではなく、アヴァンギャルドな手法やクラシカルな表現手法などが盛り込まれているのも特色だ。これらの要素が混在となった作品ではあるが、芸術の国イタリア出身のバンドらしく、知的な美的感覚が随所に露見する風情のある作品に仕上がっている。結成から最初のアルバム発表まで4年も要したバンドとは到底思えないレベルの高い内容に唖然とする。誰しもが最初の1回目のリスニングで彼等の実力を認める事だろう。

  イタリアン・ロックのアヴァンギャルドな側面というとアルフレッド・ティソッコを主体とするオパス・アヴァントラや作曲家シェーンベルグの名曲からバンド名を拝借したピエロ・リュネール、更にデダルスの2作目などが連想されるが、本作でのアヴァンギャルドな表現手法はこうしたバンドの斬新な作品ほどの前衛性が発揮されている訳ではなく、作品のデコレーション的な立場を堅持している。CDの帯には『おもちゃ箱をひっくり返したような傑作』との謳い文句が記載されているが、1976年という時代を考えると確かにそうかもしれないが、ヘンリー・カウ一派のサウンドや1980年代/1990年代の AYYA/In Poly Sons 系の脱力系サウンド程の変態さは感じられない。主役はやはりカンタベリー系ジャズ・ロックのエキスだろう。
  イタリアン・ロックを代表する変態バンド、という大袈裟な宣伝文句に釣られて購入すると、一部のアヴァンギャルドな表現形態を除けば品のよいジャズ・ロックといったピッキオ・ダル・ポッツオのサウンドに少々肩の力が抜けるかもしれない。デビュー作でありながら、まるで結成して数十年の活動キャリアを持つベテラン・バンドのような落ち着き払った安定感をも感じられる。イタリアのロック・バンドというと英国の大物プログレッシヴ・ロック・バンドからの影響が感じられるケースが大半だが、カンタベリー系バンドから多大な影響を受け、さらにその遺伝子を作品製作の場で満遍なく生かしてしまったのだから、カンタベリー系サウンドの好きな人には絶対必聴のマスト・アイテムであるといえよう。


投稿日 :2004/12/26

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