投稿日:2005/06/03  投稿者:七福神

Linda Perhacs / Parallelograms (1970)
( Psychedelic/Acid Folk, Singer/Songwriter )

1.Chimacum Rain 
2.Paper Mountain Man 
3.Dolphin 
4.Call Of The River 
5.Sandy Toes 
6.Parallelograms 
7.Hey, Who Really Cares? 
8.Moons And Cattails 
9.Morning Colors 
10. Porcelain Baked-Over Cast-Iron Wedding 
11.Dericious

12.If You Were My Man(demo) 
13.If You Were My Man(studio) 
14.Hey, Who Really Cares(withintro) 
15.Chimacum Rain (demo)
16.Spoken Intro To Leonard Rosenman 
17.Chimacum Rain(demo with sounds) 
Linda Perhacs / Parallelograms (1970)

  1970年に僅か1枚の作品を発表しただけで音楽シーンから消えてしまったリンダ・パーハックス(Linda Perhacs)という女性シンガーをご存知だろうか。かつては長らくハワイ出身のシンガー/ソング・ライターと思われていたが実は米西海岸カリフォルニアのフォーク・シンガーだったそうだ。ジョニ・ミッチェルやサンディ・デニー、あるいは1960年代末のサイケデリック/アシッド・フォークに影響を受けたであろうリンダ・パーハックスは1970年にセルフ・タイトルによるデビュー作品「Parallelograms」を発表したが、当時の音楽出版社がハワイ・ミュージック(Hawaii Music)という名前だった事からハワイ発のアシッド・フォーク作品として長らく語られてきた。残念ながら旧作の復刻の際にCDのライナー・ノーツなどで暴かれてしまったが。
  「Parallelograms」の地味な表ジャケットに写る骨太な輪郭のリンダ・パーハックスの写真を見た感じだと一見ネイティヴ・アメリカン(インディアン)のような感じもするが、CDケース中側には1996年当時のリンダ・パーハックスの写真が掲載されている。「Parallelograms」から26年後、今から既に9年も前の写真だが、頭に鉢巻を締めた彼女の姿は1980年代のオリヴィア・ニュートン=ジョンの《フィジカル》みたいで実に健康的。「Parallelograms」のアルバム・ジャケットに写るリンダ・パーハックスと同一人物とは到底思えない。浮き沈みが激しいエンターテイメントの世界とは無縁の、良き妻、良き母といったイメージが写真1枚で伝わってくるが、ドリーミーで幻想的な1970年の作品のイメージとは異なるので、CDケースの中に押し込まれのだろう。

  時は1960年代、ビートルズやローリング・ストーンズ、アニマルズ、ヤードバーズらを筆頭とするブリティッシュ・ビート勢の逆襲によって米国のフォーク・シーンは激動の渦に巻き込まれる事になったが、先駆者であるボブ・ディランや或いはフレッド・ニール、ティム・ハーディンらの活躍によってアメリカン・ルーツ・ミュージックが再認識されてフォークが1960年代中〜後期にかけて再びブームとなり、それは1970年代のシンガー/ソングライターのブームへと繋がる事になる。エレキ・ギターを構えてビート・サウンドを演奏する英国勢のサウンド・スタイル、更に米西海岸を拠点とするサイケデリック・ミュージックの台頭によって、それまで生ギターを抱えてプロテスト・ソングを唄う決まりきった旧態依然の米フォークの古典的なスタイルの世界にも多大な変化が現れた訳だ。
  米国での新たなアコースティック・サウンドは海を超えて英国にも飛び火する。リチャード・トンプソンやサンディ・デニーらによるフェアポート・コンヴェンションやコンヴェンションを脱退したアシュリー・ハッチングスによって結成されたコンヴェンション派生組のスティーライ・スパン、ジョン・レンボーン、バート・ヤンシュによるペンタングルなどだ。多かれ少なかれ米国からのフォークの影響を受けた彼等は英国伝統のトラディショナルなサウンドと融合させてエレクトリック・トラッドなる新しいスタイルの音楽を生み出す事になる。リンダ・パーハックスもこうした米英の動きに触発されて音楽活動を開始したに違いないが、マイナーなレコード会社から作品を発表した為、彼女の存在は今もって幻の存在扱いとなっているのが現況だ。


 ■ Linda Perhacs    - Lead Vocal, Guitar, Electric Effects

 ■ Leonard Rosenman - Electric Effects
 ■ Steve Cohn       - 6-String, 12-String & Electric Guitar
 ■ Reinie Press     - Electric Bass, Fender Guitar
 ■ Milt Holland     - Percussion
 ■ Shelly Mann      - Percussion   ■ John Neufeld    - Flute, Saxophone
 ■ Tommy            - Harmonica    ■ Brian Ingoldsby - Amplified shower hose for Horn Effects, Chimacum Rain

  1970年に発表されたリンダ・パーハックス唯一の作品「Parallelograms」は米アシッド・フォーク史上に残る隠れた名作。オリジナル収録は11曲(本CDにはデモ・テイクなどボーナス・トラックが6曲追加収録)で全曲リンダ・パーハックスのオリジナルだが「Hey, Who Really Cares ?」のみオリヴァー・ネルソンとの競作とある。オリヴァー・ネルソンといえば世界的に有名なアレンジャー/サックス奏者だが同一人物であるかどうかは判らない。またゲスト打楽器奏者としてシェリー・マンの名前がある。私も大好き、今は亡き問答無用の超絶ジャズ・ドラマーのあのシェリー・マンと同一人物だろうか。そしてベース奏者はニール・ダイヤモンド、デヴィッド・キャシディ、キム・カーンズ、ラリー・カールトン、アート・ガーファンクルなどの作品に参加した経験を持つセッション・マンで1970年代後半には元スティーリー・ダンのデヴィッド・パーマーらと共に Big Wha-Koo というバンドを結成している。
  また「Parallelograms」のプロデューサーとしてレナード・ローゼンマン(Leonard Rosenman)の名前がある。もし同一人物ならば彼は大変有名な人物だ。言うまでも無く、レナード・ローゼンマンは映画音楽の世界では大変有名な人。『エデンの東』『理由なき反抗』『暴力波止場』といった1950年代の映画から『ミクロの決死圏』『続・猿の惑星』『バリー・リンドン』『ウディ・ガスリー/わが心のふるさと』『指輪物語』『ジャズ・シンガー』『郷への長い道/スター・トレック4』『ロボコップ2』などの幅広い映画音楽を手がけた人物として知られている。ネルソンやシェリー・マン、ローゼンマンなど、CD冊子に記載されたクレジットを追いかけると結構有名な人間達の名前が見つかるが、彼等が世間で有名な人達とは全くの別の人である可能性もあるので、これ以上深く追いかけずに「Parallelograms」の作品自体に触れる事にする。

  さて、リンダ・パーハックスの「Parallelograms」にはオリジナル11曲が収録されている。以前発表されたCDには盤起こしのものがあったらしく、音質は芳しくなかったようだが米 The Wild Places から発売されたものはちゃんとマスターからリマスターされた物の様で、ボーナス・トラックまである。これから買うのなら The Wild Places 盤だろう。上でも書いたが、「Parallelograms」は1960年代後半の新たなフォーク・シーンの盛り上がりやサイケデリック・ミュージック、英国のフォーク/トラディショナルな音楽の動きを背景とした作品だろう。演奏の中心は勿論アコースティック・ギターであり、素朴で暖かみのあるリンダ・パーハックスのピュアな歌声が森の中から現れ出た妖精の如くリスナーの心に深く浸透してくる。全編を通じてスピリチュアルな楽曲が中心であるが、だからと言って本作は生ギター弾き語りオンリーのフォーク/トラディショナル作品でもない。


  この作品を聴いて私は絶対必聴のアシッド・フォークの裏名盤キャシー・ヤング「A Spoonful of Cathy Young」(1969年)を思い出した。あの作品にもハウリン・ウルフの「Spoonful」がカバーされていたが、キャシー・ヤング嬢程の壊れぶりこそないものの、本作にもブルース・ハープを導入したパーハックスのオリジナルによるアコースティックなブルース・ナンバー「Paper Mountain Man」が収録されている。また、ヴォーカル・パートにも随所に多重録音が駆使されており、更に《エレクトリック・エフェクト》とクレジットにあるように本作には随所にフォーク的なイメージとは全く程遠い幻想的でアヴァンギャルドなアレンジが飛び出してくる。この辺はジョニ・ミッチェルやサンディ・デニーといった女性歌手からの影響ではなく、ひょっとすると米アコースティック・ミュージック界のイノヴェイター、ジョン・フェイヒィからの影響が多大にあるのかもしれない。

  だが、「Parallelograms」におけるこうしたエフェクトはあくまでも飾りに過ぎない。透き通るようなリンダ・パーハックスの歌声をバックにしたスピリチュアルでピュアなアコースティック・フォークがベースでドリーミーなアシッド・サイケ色を施した、というのが本作の正体。リンダ・パーハックスは本作の為にシンプルな曲を提供し、そこにプロデューサーのレナード・ローゼンマンやフランク・ザッパの「Hot Rats」にもエンジアとして参加した経験を持つブライアン・インゴルスビィや更にテリー・ブラウン(ラッシュのプロデューサーとして有名なテリー・ブラウンと同一人物なのか?)といった人達によるスタジオ・エフェクト(時にパーハックス自身も参加)が加えられたのが真相だろう。
  楽曲自体も水準以上のものだし、数々のエフェクトが加えられた事により、本作がその他大勢の他のフォーク作品とは一線を画す作品として成り立ってしまっている。ジャケットのイメージから生ギター中心の弾き語り純朴サウンドであるかと錯覚しがちだが、ヴォーカル・パートにも多重録音が駆使されているし、録音にも結構手間がかかっているようなので、世間一般で比較される、例えばヴァシュティ・バニヤンの天上作品「Just Another Diamond Day」やアリーシャ・サフィット(マジック・カーペット)のソロ作品とはまた毛色が違うとは思うが、永久に語られるマスト・アイテムであろう事は確信を持って言う事が出来る。それと、気になる点が一つ。最近発売されたCDである筈なのにCDケース裏にかなり前の写真が掲載された理由は?もしかるすると闘病生活を送っているのか、最悪既に死去しているのかもしれないなぁ。


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