投稿日:2005/06/10  投稿者:七福神

Izukaitz / Izukaitz (1978)
( Acid Folk, Electric Trad.,Spanish Folk Rock )

1. Zikiro Beltza 
2. Emaiozue 
3. Zuberoako Ihauteria 
4. Hala Baita 
5. Lo Hago 
6. Xori Bele 
7. Xabaldorrena 
8. Jarrai 
9. Agur 
Izukaitz / Izukaitz (1978)

  1970年代の後半から1980年代初頭のスペインの音楽シーンにおいて2枚のアルバムを発表したスペインのフォーク・グループ、イスカイス(Izukaitz)。同時期のスペインにはイトイス(Itoiz)とかイツィアール(Itziar)とか、いずれも生楽器をフューチャーしたアコースティックな質感のサウンドを得意としていた、なんとなく似たような名前のバンドが存在して少々ややこしいが、このイスカイスもアコースティックな質感のフォーク/トラディショナルな音楽性を発揮して1980年前後のスペインはバスク地方の音楽シーンに華やかな色香を放っていたバンドの一つだったようです。日本でも10年程前にマーキー/ベル・アンティークから国内販売されていた過去があったようだが、フラメンコの国らしからぬ可憐なサウンドで地味ながらも少なからずフォーク/トラディショナル・ファンの心をこれまで虜にしてきた。
  スペインを代表するスパニッシュ・ロック・バンドといえばグラナダやトリアナといった即座に名前が挙がる大物バンドを筆頭に、ゴチック、アイスバーグ、エロビ、クラック、ゴマ、コンパニア・エレクトリカ・ダルマ、フシオーンといったバンドをこれまで取り上げてきたが、特定のジャンルの音楽性に偏らないというか、ロックの先進国である米英ほどではないが、知れば知る程、スペインのロック・シーンも剛から柔まで結構幅が広いものだと関心するばかりだ。今回取り上げるイスカイスもフラメンコ・ロックの本場スペインとは一見似つかわしくない柔らかいサウンドを得意として音楽活動を展開していたバンド。勿論、バスクという地域がスペイン国内に存在する地図にない別の国とも言われるだけに、《濃い国》というスペインに対する通俗的で表面的なイメージだけで解釈するのは限界がある事だけは確かだ。

  フォークロアな雰囲気たっぷりの音楽性を誇るプログレッシヴ・フォーク/トラッド・バンド、イスカイスのデビューは1978年。セルフ・タイトルによるデビュー作「Izukaitz」の時点ではフルートやヴァイオリン、ギター、キーボード、ベースなどの楽器を担当する演奏家達を中心に構成されていた6人編成のバンドで、この手のバンドの定説というか、外連みのない女性ヴォーカリストもメンバーの一人として抱えていた。この作品を提供したレーベル XOXOA はバスクのレーベルで主に地元バスク出身の音楽家達の作品を発売していた会社。アイセア (Haizea)という、これまたプログレッシヴ風のフォーク/トラッド・バンドの作品やエキゾチックなジャズ/フュージョン・ロック・バンド、エロビの作品を発表したレーベルとしても知られている。
  凡そ2年後の1980年には通算2作目の「Otsoa Dantzan」が前作同様 XOXOA レーベルから発表されている。メンバーは前作同様6人編成でメンバーに変わりはない。こちらの作品は私は未入手だが、楽器の編成からしてデビュー作同様、専属ドラマー抜きの軽音楽風の佇いであると思われる。1970年代末から1980年代初頭にかけて、似たような音楽性を持つバンドが同時期に複数存在していた事から、このようなアコースティックな質感のフォーク/トラッド・サウンドがこの時期のバスク区域内における流行だったのだろうか。だが伝統的な音楽が今なお残っていると言われているバスクだけに、フォークロアな音楽はこの時期だけに限らず、いつの時代もバスク人達の熱い支持を得続けているのかもしれない。


 ■ Fran Lausen      - Violin, Guitar, Vocal
 ■ Luis Camino      - Guitar, Percussion, Vocal
 ■ Aurelio Martinez - Flute, Goxoak
 ■ Joxe Korkuera    - Guitar, Vocal
 ■ Odile Kreuzeta   - Keyboards, Xirula, Vocal
 ■ Xabi Laskibar    - Bass

  イスカイスが音楽シーンに残した作品は多分「Izukaitz」「Otsoa Dantzan」の2枚。今回取り上げる作品は1978年のデビュー作「Izukaitz」の方。ちなみに私が持っているCDは Elkar/Lost Vinyl という会社から発売されたもの。現在では Guerssen というレーベルから再発されているようだが音質はどうなのか。私の持っている Elkar/Lost Vinyl 盤の音質はあまり良くない。音はモコモコこもっているし、スピードが変わってしまうような部分がある事からマスターから起こしたものではなく盤起こしの可能性もある。銀盤に刻まれた肝心の音楽自体に全く問題がないだけに、音質の悪さはなんとかして欲しい。過去、日本国内でもマーキーから正式発売されていたようだが、こちらの音質はどうだったのか。
  のっけからバンドの本質とは関係がない音質の問題に触れてしまったが、肝心の音楽自体は非常に素晴らしい。近年我が日本でもバスクの音楽が静かなブームとなっており、いくつかのバンドが日本でも地味ながらも紹介されるようになった。その中には非合法組織集団ETA(バスク祖国と自由)を支持するフェルミン・ムグルサのような、レゲエやスカやヒップ・ホップ、ソウルなどの要素を盛り込んで現代的にアレンジしたワールド・ポップな存在やトリキティシャと呼ばれるボタン式の伝統的なダイアトニック・アコーディオンを使用してポップなアレンジを加えたマイシャ・タ・イシャールのようなトリキ・ポップなる若者世代向けの新世代バスク・ミュージックも含まれるが、イスカイスはこうした最近の新世代バスク・ミュージックとは大きく異なる。

  彼等がお手本としていたのはペンタングルやフェアポート・コンヴェンション、スティーライ・スパンなどの英エレクトリック・トラッドだろうか。古めかしいフルートやヴァイオリン(フィドル)の使い方は時に古楽のようでもあり、時にプログレッシヴ・ロックにおけるシンプルで小品集的な展開でもある。良く言えばバラエティに富んでいるとも言えるが、反面、中途半端で手法が未消化であるとも取れる。結果的にベースはフォーク/トラッドなサウンドでありながらも堅苦しい形式的なスタイルに捕られずに唄われる(奏でられる)事に落ち着いているのがイスカイスの特徴となっている。また、時に悲恋なイメージが浮かび易いような寂れた旋律を少々内包している音楽でもあるので、陰気臭い音楽が好きな日本人にも好まれ易いサウンドでもあるだろう。
  10年遅れのアシッド・フォーク的な響きもあるが、素朴で抒情豊かな様を連想させるフォーキーなな演奏、不浄な部分を微塵も感じさせないスター性皆無のパンチのない女性ヴォーカル、しょぼいエレクトリック・ギター、明るく振舞おうと努力するが、正直成功しているとは言いがたいベース&パーカッションのリズム・セクションなどの要素が巧く融合しているとは言い難い。野暮というかスマートではない、というのが率直な感想。最後まで聴き通すとファンタジックでメルヘンチックな残像が頭の中で残るような気がするが、これも本作における未消化な部分が結果的に聴き手にこうしたプラスのイメージを残させるのだと思う。最後に誤解のないように付け加えておくが、野暮とか垢抜けないという言葉は音楽を語る上で時として褒め言葉として利用される事もあるが、今回はその一例でもある。


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