Graham Bond / Holy Magick + We Put Our Magick on You (1970,1971)
( Jazz Rock Orchestra, British Jazz, Blues Rock, Occult )

《Holy Magick》

1. Meditation Aumgu  
2. The Qabalistic Cross 
3. The Word of the Aeon 
4. Invocation to the Light  
5. The Pentagram Ritual  
6. Qabalistic Cross  
7. Hymn of Praise  
8. Gates to the City  
9. The Holy Words Iao Sabao  
10. Aquarius Mantra  
11. Enochian (Atlantean) Call 
12. Abrahadabra the Word of the Aeon 
13. Praise 'City of Light'  
14. The Qabalistic Cross Aumgu 
15. Return of Arthur  
16. The Magician 
17. The Judgement 
18. My Archangel Mikael  
《We Put Our Magick on You》 

19. Forbidden Fruit, Pt. 1 
20. Moving Towards the Light 
21. Ajama 
22. Druid 
23. I Put My Magick on You 
24. Time to Die
 25. Hail Ra Harakhite 
26. Forbidden Fruit, Pt. 2
Graham Bond / Holy Magick + We Put Our Magick on You (1970,1971)

  ジミー・ペイジ(レッド・ツェッペリン)、オジー・オズボーン(ブラック・サバス)、ジョン・レノン(ビートルズ)ら、大勢のロック・ミュージシャンに多大な影響を及ぼした20世紀最高の神秘主義者/魔術師、アレイスター・クロウリー(1875-1947)。厳格なキリスト教信者の両親の元に生まれるも10代の頃に反発してオカルト主義に走り、20代前半の頃から関わり始めた秘密結社での活動を通して黒魔術/サタニズム主義まっしぐら。1904年の著作「法の書」を筆頭に神秘主義関連の作品を多数発表、以降フリーメーソンらの活動とリンクし世界中に大勢の後継者・弟子・信者を生み出しました。最終的に《メイガス》という地位まで上り詰めたクロウリーの意思は弟子の策士アントン・ラヴェイ(1997年没)に引き継がれ、21世紀を迎えた今尚、多大な影響力をお呼びしているといえよう。
  今日クロウリー〜ラヴェイの神秘主義からの影響を最も強く感じる事の出来るロック・ミュージシャンといえば、誰もがマリリン・マンソンの名前を思い浮かべるでありましょうが、今回取り上げるアーティストはあまりにサタニズムの影響を強く受け過ぎ、結果身を滅ぼしてしまった悲劇の音楽家。ブリティッシュ・ブルース界の巨人の一人、ジョン・メイオールの4歳年下、1937年英エセクス出身のサックス/キーボード奏者グラハム・ボンド(本名:Graham John Clifton Bond)がその人。ボンドはクロウリー唱える悪魔主義に魅了され、1974年には《この身を悪魔に捧げる》為にロンドンの地下鉄に身投げして自殺してしまうのであります。本人が死んでしまった今、真偽の程を確かめるのは不可能なのでありますが、いずれにせよ、悪魔崇拝思想が有能な音楽家グラハム・ボンドを抹殺してしまった事は紛れもない事実。

  麻薬や乱交を悪魔的な宗教儀式の中に取り入れたクロウリーの過激なスタイルがサイケデリック/ヒッピー/トリップ/LSD、等々というキーワードで語られる1960年代後半のロック・ミュージシャンにとって非常にエキセントリックに映った事は想像に難くありません。そう、1960年代初頭から音楽シーンで活動してきたグラハム・ボンドのサウンドに潜む黒っぽい雰囲気の根底には、こうしたクロウリーからの影響が見え隠れするのであります。最終的に悪魔の為に(事実ならば)自殺までしてしまったボンドの作品を聴く場合、こうした点を踏まえてグラハム・ボンドの理解する必要があるのかもしれません。
  時は1962年。イギリスのジャズ・ロックを語る上で絶対に外せない存在である巨星アレクシス・コーナーの元を去った盟友シリル・デイヴィースに代わってブルース・インコーポレイテッドに参加したメンバーの一人が、当時新人ジャズ・ミュージシャンとして脚光を浴びていたグラハム・ボンド。当時アレクシス・コーナーの元に参加していたメンバーはボンドの他、ジャック・ブルース、ジンジャー・ベイカー、ディック・ヘクストール=スミスという、ブルースやジャズを下地に持つ今となっては信じられない豪華な布陣。 


  しかし、残念ながらこの編成で正式なブルース・インコーポレイテッドのアルバムは(当時)発表されず、翌年逆にボンドは後のクリーム・リズム・セクションの要となるジャック・ブルース&ジンジャー・ベイカーのベース&ドラムスの2人を引き連れて脱退、年長のボンドをリーダーとする新バンドを結成します。後にバンド名をグラハム・ボンド・オーガニゼイションと正式に命名し、ディック・ヘクストール=スミスを加えた編成で1965年にコロンビアから「The Sound of '65」で正式にアルバム・デビューを飾る事になるのですが、この正式デビュー前にギター超人ジョン・マクラフリンが一時的に加わっていた事が知られています。
  かつては、あのキング・クリムゾンのロバート・フリップからも一目置かれていたというジョン・マクラフリンでしたが、グラハム・ボンドとはソリが会わなかったのか。正式デビューを前にボンドの元を去っています(当時の音源の模様を収めた「Solid Bond」というライブ盤あり)。ジャズを隠し味としたR&Bを基本としたグラハム・ボンド・オーガニゼイションはロック界で初めて使用されたというメロトロンをフューチャーした2作目「There's A Bond Between Us」を1966年に発表するも、ジャック・ブルース&ジンジャー・ベイカーの強力リズム・セクションがエリック・クラプトンと共にクリームを結成してしまう為、事実上グラハム・ボンド・オーガニゼイションは崩壊してしまう事になります(ジンジャー・ベイカー脱退後にオーガニゼイションに一時的に参加したドラマーが、なんとあのジョン・ハイズマン)。

  1960年代後半、ボンドは活動の拠点をジャズやR&Bの本場アメリカに移して音楽活動を展開、イギリス帰国後には旧友ジンジャー・ベイカーが結成したスーパー・セッション・バンド、エア・フォースやジャック・ブルースの元で活動を展開、また新たに自身のバンドを結成して音楽活動を展開しています。「Holy Magic」(1970年)、「We Put Our Magic On You」(1971年)、などがこの時期の代表的な作品でありますが、この時期、オカルト信仰に取り付かれていたボンドは過剰なアルコール摂取やドラッグに溺れ、1974年5月8日の最終日まで破滅の道を突き進んでいた過渡期でもありました。
  ヴァーティゴ・レーベルから2枚のアルバムを発表した後、1972年には「Two Heads Are Better Than One」をピート・ブラウンと発表、この後も新バンド結成を画策しますが、何度も書いたように数年後のロンドンの地下で轢死。飛び込んだのか、落ちたのか、落とされたのか。事故死なのか他殺か自殺か。晩年は酒とドラッグに溺れていただけに、サタニズムにのめり込み過ぎて自分を見失ってしまった、と解釈するのが正当でしょう。自分のサウンドに神秘的な要素を盛り込んで独特のサウンドを形成するだけに抑えておければよかったのですが。


《Holy Magic》
 ■ Graham Bond     - Keyboards, Saxophone, Vocals 
 ■ Victor Brox     - Keyboards, Tibetan Dhong, Pocket Cornet, Euphonium, Vocals 
 ■ Kevin Stacey    - Guitar 
 ■ John Moorshead  - Guitar 
 ■ Rick Grech      - Bass 
 ■ Alex Dmochowski - Bass 
 ■ Keith Bailey    - Drums
 ■ Godfrey McLean  - Drums 
 ■ Big Pete Bailey - Percussion 
 ■ John Gross      - Saxophone 
 ■ Jerry Salisbury - Cornet 
 ■ Diane Stewart   - Vocals 
 ■ Aliki Ashman    - Vocals 
 ■ Annette Brox    - Vocals

《We Put Our Magick on You》 
 ■ Graham Bond     - Keyboards, Saxophone, Vocals 
 ■ Harold Williams - Guitar 
 ■ Terry Poole     - Bass, Guitar 
 ■ John Weathers   - Drums 
 ■ Gaspar Lawal    - Percussion 
 ■ Steve Gregory   - Saxophone
 ■ Diane Stewart   - Vocals

  さて、本CDはアメリカから母国イギリスに帰国したグラハム・ボンドが1970年代初頭に発表した2枚のアルバムを1枚のアルバムに詰め込んだ、所謂 2 in 1 形式のCD(オリジナルを無視した、私の最も軽蔑する収録スタイル)で1999年に英BGOから発売されています。オカルト風味の黒い雰囲気抜群のジャズ・ロック作品(1970年)と、前作よりは幾分聴き易くアレンジされた作品(1971年)、以上2枚が収録。BGOさんは「The Sound of '65」「There's A Bond Between Us」のオーガニゼイション時代の初期2作をカップリングした 2 in 1 形式のCDも発売しております。後にクリームに参加する2人が参加している事から、歴史的な価値はこちらの方が高いかもしれませんが、オカルト色を感じさせる1970年初頭の2作品同時収録版もなかなかどうしてGOOD。
  1970年に発表された、トラフィックとブラインド・フェイスが合体した様なアフロ・ジャズ/ブルース・ロック・ユニット、ジンジャー・ベイカーズ・エアー・フォース(エリック・クラプトンは参加せず)にもグラハム・ボンドはサックス奏者として参加しておりますが、(録音がどちらが先かは判りませんが)「Holy Magic」における呪術的で重厚なビック・バンド編成は否が応にも、ジンジャー・ベイカーのバンドを(いささか強引ではありますが)連想してしまいます。作品の出来も両者とも甲乙つけ難い程の出来栄えとして私の耳には聴こえます。

  フランス生まれのベース奏者でブラインド・フェイスやジンジャー・ベイカーズ・エア・フォースにも参加していたリック・グレッチ、ピーター・グリーンのソロ・アルバム参加や後にフランク・ザッパのバンドに参加する事になるアレックス・ドモホフスキー(ベース)、ジャズ畑のキース・ベイリー(ドラムス)やジョン・グロス(サックス、シェリー・マンのアルバム・セッション等あり)、ブライアン・オーガーズ・オブリヴィオン・エクスプレスのアルバムにも参加歴のあるゴッドフレイ・マックリーン(ドラムス)、また、元バタード・オーナメンツのピート・ベイリー(パーカッション)、等、ロック、ジャズ、ブルースなどの音楽シーンで活躍する実力派が勢揃い。
  ロック、ジャズ、ブルース、R&B、アフリカン・ビートなどの要素が渾然一体となって融合、更に真摯な態度で黒魔術の世界に踏み込みサタニズムのエキスを注入した名作「Holy Magic」。ジンジャー・ベイカーズ・エア・フォースのアルバムが好きな人なら、こちらも買いだ。対して、19曲目以降に収録の「We Put Our Magick on You」は、ぐっと洗練されたアレンジが施された、より洗練されたジャズ/ブルース・ロックという雰囲気(2作共に参加しているダイアン・スチュワートはボンドの妻)。聴き易さという点では、こちらの方がお奨めか。1970年代初頭のイギリスの音楽シーンにおける流行の一つだったスワンプ・ロック色も感じられ、なかなか楽しい作品。2作の雰囲気は随分違いますが、2作ともに名作・秀作としてお奨めできる。

  しかし、出来ればね、オリジナル仕様に忠実にデジタル・リマスターして2枚のCDとしてそれぞれ単品発売してもらいたい。


投稿日 :2004/01/24

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