Dusty Springfield / Dusty in Memphis (1969)
( Smooth Soul, Blue-Eyed Soul, Memphis-Sound,  Pop  )

1. Just a Little Lovin' 
2. So Much Love 
3. Son of a Preacher Man 
4. I Don't Want to Hear it Anymore 
5. Don't Forget About Me 
6. Breakfast in Bed 
7. Just One Smile 
8. The Windmills of Your Mind 
9. In the Land of Make Believe 
10. No Easy Way Down 
11. I Can't Make It Alone 

12. What Do You Do when Love Dies 
13. Willie & Laura Mae Jones 
14. That Old Sweet Roll 
15. Cherished 
16. Goodbye 
17. Make it with You 
18. Love Shine Down 
19. Live Here with You 
20. Natchez Trace 
21. All the King's Horses 
22. I'll Be Faithful 
23. Have a Good Life Baby 
24. You've Got a Friend 
25. I Found My Way 
Dusty Springfield / Dusty in Memphis (1969)

   エルヴィス・プレスリーが1970年に取り上げてヒットさせた「You Don't Have to Say You Love Me」(邦題:この胸のときめきを)をプレスリーに先駆ける事4年、1966年の時点で取り上げ英国でシングル・チャート1位を獲得したのは、英国ロンドン出身で1960年代最高の白人ソウル歌手(ブルー・アイド・ソウル)の一人と言われる歌姫ダスティ・スプリングフィールド(Dusty Springfield)。1960年代にデビューした小柄なダスティ・スプリングフィールドは持ち前のハスキーな歌声を武器にポップス、ジャズ、ソウル、ロック、ブルース等のジャンルを取り込んで自分のものとして吸収し成功を収めてきた、英国屈指の白人女性スムース・ソウル歌手。
 私の場合初めて彼女の曲を聴いたのが「この胸のときめきを」(リアル・タイムではありません)だったと記憶しておりますが、プレスリー・ヴァージョンもスプリングフィールド・ヴァージョンも共に(多分)CMに起用された事があるので比較的若い音楽ファンの間でも案外馴染みのある曲だと思います(2人意外にもキキ・ディー、シェール、ブレンダ・リー、シャドウズ、グレン・キャンベル、ヴィッキー・カーらがカバーした名曲バラードで元ネタはカンツォーネだとか)。彼女の全盛時はやはり1960年代のようで1963年〜1968年の6年間だけでも実に14曲ものトップ20ヒット(英国の場合)を記録したようです。

  また、彼女の歌うバート・バカラックやキャロル・キングのカバー・ナンバーもファンには好評で「The Best of Bacharach」「Sings Bacharach & King」といったアルバムも発表されております。1970年代以降はヒット曲に恵まれない時代が続きますが、1987年にはペット・ショップ・ボーイズと共演した「What Have I Done To Deserve This」が全英シングル・チャート2位を記録するなどして見事に音楽シーンに返り咲くものの、その後1990年代中頃に発覚した乳ガンが悪化、放射線治療などの治療を受けるものの、1999年に惜しくも他界してしまいました。
 ダスティ・スプリングフィールド(本名は Mary Isabel Catherine Bernadette O'Brien)はソロ歌手として音楽活動を始めるずっと前から活動を行っていた模様で、1950年代後半にはラナ・シスターズ(Lana Sisters)という女性ヴォーカル・トリオのメンバーとして、1960年代に入るとダスティ・スプリングフィールドの兄ディオンやその友人、そして彼女の3人で構成されたフォーク・トリオ、スプリングフィールズのメンバーの一人として活動を展開しておりました。この時点で既に長たらしい本名ではなく、どうやら《ダスティ・スプリングフィールド》というステージ・ネームを使用していた模様です。当時そこそこの人気を誇っていた同ユニットから彼女は1963年に離脱、ソロとしてのキャリアをスタートさせる事になります。

  ダスティ・スプリングフィールドは1963年に第一弾シングルとなる「I Only Want To Be With You」(1970年代中頃にベイ・シティ・ローラーズが取り上げてヒットさせた曲。1970年代後半から洋楽を聴き始めた方には馴染み深い曲)を発表、これがいきなり英米でヒットを記録します。またバート・バカラック/ハル・デイヴィッドによる曲「Wishin' and Hopin'」も全米でヒット、瞬く間に英国出身のブルー・アイド・ソウル・シンガー、ダスティ・スプリングフィールドはスターの座を獲得する事になるのです。
 丁度この頃、音楽シーンでは英国ビート・グループの米国席捲、所謂”ブリティッシュ・インヴェイジョン”が吹き荒れていた頃ですが英国出身の女性ポップス歌手も英米で大きな成功を収めていた時期でもあったようです。サンディ・ショウ、ルル、トゥインク、マリアンヌ・フェイスフル、シラ・ブラック、ペトゥラ・クラーク等の女性ポップス歌手がその代表格だったようですが、そんな中にあってソロ・デビュー時点で既に5年程度の活動実績を持っていたその他大勢の《嬢ちゃん歌手》とは明らかに違う大人の女性ダスティ・スプリングフィールドは、類稀なソウルフルな歌声もあってか他の女性歌手とは一線を画す存在だったようです。


  さて今回取り上げる作品はダスティ・スプリングフィールドがアレサ・フランクリンのアルバム・プロデュースでもよく知られた、ジェリー・ウェクスラー(他にレイ・チャールズ等)、トム・ダウド(他にオールマン・ブラザーズ・バンド、ブラック・オーク・アーカンソー、エリック・クラプトン等)、アリフ・マーディン(他にビー・ジーズ、アヴェレージ・ホワイト・バンド、ジョージ・ベンソン、ロバータ・フラッグ、チャカ・カーン等)らをプロデューサー/アレンジャーとして迎え入れて1969年に発表した異色の作品。なにが異色といえば、英国歌手である彼女がブルースの発祥地であり、ソウル・ミュージックの本拠地でもある米テネシー州メンフィスまで出向き録音を行ったという事。
 が、元々ソウル志向の強い歌手だっただけあって、スピーカーから飛び出される彼女の歌とサウンドからは全く違和感を感じない素晴らしいアルバムに仕上がっております。勿論、当然『黒人』ではないだけにアクの強い本格的なサザン・ソウル風アルバムが出来上がる筈がなく、どちらかといえば洗練されたアーバン・ソウル風のポップなスムース・ソウル作品に仕上がっているのがミソ。収録曲は全部で11曲でジェリー・ゴフィン/キャロル・キング、バリー・マン/シンシア・ワイル、バート・バカラック/ハル・デイヴィッドらによる曲に混じりランディ・ニューマン提供による曲も2曲収録されております。日本でもよく知られた「Son Of A Preacher Man」(1968年米10位英9位のヒット曲)やゾクゾクとするようなバラード「The Windmills of Your Mind」(1969年米31位)も収録。

 ブルース発祥の地であるメンフィスで録音された影響か、ブルースの影響をも感じさせる曲もあり、なかなかに聴き応え満点の傑作ポップ・アルバム。コクのあるタップリとしたソウル・アルバムを求める人には不向きですが、1960年代に発表された名作ポップス/ロック・アルバムをコレクションしている方なら是非とも購入して頂きたい1枚。ちなみに本CD(ライノ盤)は未発表曲などボーナス・トラックをナント14曲も詰め込んだデラックス盤。録音時期/場所は1968年/メンフィス、1969年/ニューヨーク、1970年/フィラデルフィア(1970年に発表されたフィラデルフィア録音「A Brand New Me」の未発表テイクか?)、1971年/ニューヨークと場所も時期もかなりバラバラですが、ヴォーカリストの力量故かアルバム全体としての統一感は取れてます。何故これが未発表曲?というレベルの曲ばかりに唖然。


投稿日 : 2002/9/04 

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